(投稿者:技術部 引地)
■ はじめに
弊社プライベートセミナーのアンケート結果を基に全3回でお送りする技術ブログは、今回で2回目となりました。
「熱的リスクの検証」をテーマとした1回目のブログでは、ブランキングパネルの有無で熱的リスクがどれほど変わるかを、熱流体解析ソフトウェア 6SigmaRoomで検証しました。2回目のテーマは「コスト削減」です。
早速ですが、皆様はどのようにコストを削減していますか?「オンプレミスで自社サーバルームを運用している企業」や「コロケーションやクラウドサービスを提供している企業」の双方にとって、データセンタのコスト削減は重要な課題です。
コスト削減の方法として、「IT機器と空調設備を省エネタイプに交換する案」や「電気料金、人件費、法人税が日本に比べて安価な国にデータセンタを移管する案」が挙げられます。しかし、これらの方法では多額の初期投資が必要となり、回収までに何年もかかります。設備を交換/移動することなくコストを削減できるのであれば、まずはこの方法から試してみる価値は十分にあるでしょう。
そこで今回は、現状の設備で行うことができる「電力コストの削減」をテーマに解説します。
■ コスト削減
データセンタを運用されている方々はよくご存じかと思いますが、下のグラフが示すように、データセンタの電気代は「IT機器」と「空調設備」が大半を占めています。
しかし、IT機器の消費電力を減らすには、設備の交換が必要です。その一方で、空調設備の消費電力は、現状の設備のまま「設定温度を上げる、または風量を減らす」ことで削減できます。事実、コロケーションやクラウドサービスを提供している企業は、お客様と締結したSLAを遵守するため、空調の設定温度を低めに、そして風量を多めに設定していることが多いため、改善の余地があります。
しかし、設定を変更した際、どのような影響がデータセンタに起こるか予想できないため、空調機の設定変更は難しいでしょう。例えば、設定温度を高めた影響でオーバーヒートが発生し、機器に障害が発生した場合、莫大な損害賠償が発生する可能性があります。このようなことを考慮すれば、余分な電気代だと知っていても、安全性を選ぶのは当然です。
安全性を保ちつつ、空調機の設定を変更する――これを可能にするのが、CFD解析です。6SigmaDCXのデジタルツインでCFD解析を行えば、「どこまで空調機の設定温度を上げられるか、風量を減らせるか」をデジタル空間上で検証できます。この方法なら、安全性を保ちつつ、空調機をどこまで最適化できるかを調べることが可能です。
さて、空調設備を見直す方法ですが、ラックの負荷は場所によって異なります。そのため、冷却風が多く必要なところと、そうでないところが混在しています。今回は空調の設定温度を上げる方法ではなく、ダイレクトに電気代に影響する送風量をラックの負荷に応じて減らし、無駄をなくす方法を実際の解析事例と共にご紹介します。
■ 機械学習とCFD解析の利用
十分に冷却されている場所への過剰風量は、リリース14 (2019年11月リリース) より新たに追加された、「最適化機能」を用いて削減できます。DOE (実験計画法) などを含むこの機能は、最適な風量と設定温度を簡単に導き出すことが可能です。
今回は実際にサンプルルームの解析事例を使い、過剰冷却を減らす方法をご紹介します。用意したモデルは以下の通りです。このサーバルームは、以下にある表の仕様 (図2. 右) で作成しています。今回の解析の目標は、「空調機吹出し温度18℃~20℃」、「黄色のラックの最大吸気温度が22℃以下」になる最小風量を探し、最適化することです。
・手順1.入力値、出力値の設定
前述の通り、今回の目標は「機器の安全性を保ったまま、どこまで空調の設定温度を上げられるか、風量を減らせるか調べること」にあるため、下記のように設定します。
- 入力値 (変数) :空調機ファンの稼働率、空調機の吹出し温度
- 出力値 (評価値) :ラックの最大吸気温度
また、空調機の吹出し温度を下げるより、空調機ファンの稼働率を下げることが電力削減につながりやすいため、空調機ファンの稼働率を優先するように、コスト関数を使い重みづけます。
・手順2. シナリオ設定
入力値である「空調機の温度」「空調機ファンの稼働率」それぞれに最小値と最大値を振り与えることで、自動的にサンプリングパラメータが作成されます。今回は目標を基に、「空調機の温度:18℃~20℃」「空調機のファン稼働率:60%~100%」の設定で30パターン作成します。
・手順3. 解析の実行
前の手順で作成した全てのシナリオ(今回は30パターン)をバッチ処理で解析します。最後に、解析結果のグラフからコスト関数が最も小さくなる時の入力値(ファンの稼働率、設定温度)が見つかります。
以上の手順で空調最適化を行い、「使用風量が100%の場合」と「使用風量を最適化し、使用風量を抑えた場合」を比較した結果が以下です。最適化時 (図6. 右) は、使用風量を抑えていますが、黄色のラックの最大吸気温度は22℃以下にあるため、安全な状態なことが分かります。
■まとめ
ラックの負荷は、場所により様々です。そのため、場所によっては過剰に冷却している場所があります。6SigmaRoomの最適化機能を使うことで、空調機の運用を最適化できます。今回行った最適化では、風量合計を約200㎥/min削減できました。1kWh当たりの電気代を15円として、電気代コストに換算すると、年間で約115万円削減できることになります。
このような空調機の運用最適化にご興味をお持ちの方は、ぜひ弊社までお問い合わせください。
また、6SigmaRoomは外部機械学習ソフトとも連携ができます。昨年度9月に行われた弊社セミナーでは、Mathworks®社のMATLAB®を用いた空調の運用最適化をご紹介しました。そちらもご興味がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
次回のテーマは「キャパシティ管理」です。デジタルツインを使ったキャパシティ管理方法を交えながら解説していきたいと思います。
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