現在、多くの企業がオフィス勤務再開の計画を実行に移し始めています。COVID-19の大流行はオフィス空間、特に共有スペースを見直すきっかけとなったのではないでしょうか。安全管理者やケアコーディネーターなどの新たな雇用創出に頼っている企業もいる一方で、多数の企業で注目しているのがシミュレーションです。オフィスの設計や空調設備を再構築する際の最適解をシミュレーションで検証し、感染の可能性を減らしたいという狙いがあります。弊社の6SigmaDCXソフトウェアスイートが「シミュレーションを使用して、データセンター環境の換気状況を把握できる」と知ったOEM企業数社から、オフィスの換気システムの有効性を評価したいという問い合わせをいただきました。
Future Facilitiesは、弊社ソフトウェアで行う「オフィスのシミュレーション」とはどのようなものか、また、その強みと限界は何かを探りたいと考えていました。本ブログでは2種類の吹出口を使用して、さまざまな目的と方法のシミュレーション案を簡単に作成し、その結果について検討していきます。これにあたり、私たちは「吹出口の種類と位置が換気の有効性に大きな違いを生み、その結果、空気感染を減らせるかどうかを調査・証明するためのプロジェクト」を立ち上げました。
オフィスのシミュレーションでは、物理学に基づいてオフィス空間とその換気性能をコンピュータでモデル化します。このように、実際の物と動きを物理現象として再現したモデルは、「デジタルツイン」と呼ばれることが多くなっています。弊社のソフトウェアは、物理的な形状、流れ、熱の境界条件を定義する機能を持っていますが、くしゃみや咳の中に含まれている可能性のある大きな粒子は、トレースできません。そもそも、くしゃみや咳がどこで、どのような方向に移動するかを知ることは不可能です。くしゃみや咳が出た時に、社員がどこに座っているのか、立っているのか、歩いているかを知ることができる定量評価法は無いため、1回の咳やくしゃみに対して大きな粒子を追跡しても、一般的な動きの再現とはなりません。私たちは、「オフィス空間がどの程度換気されているか、特にどの程度の速さで換気システムからの新鮮な空気と入れ替わり、汚れた空気が希釈されたか」を、弊社ソフトウェアを用いて評価しました。
弊社ソフトウェアの機能で気流、汚染物質濃度、過渡現象をモデル化した後、デジタルツイン上でトレーサーガス減衰法を用いた複数の条件下のシミュレーションを行い、実行に移すべき最適な換気方法を決定できます。「トレーサーガス」の濃度減衰法は、新鮮な空気への換気で、くしゃみや咳による空気汚染をどの程度減らせるかを予測します。
重要となるのは、どの方法 (ここでは、どの種類の通気口) が古い空気を最速で希釈するかです。デジタルツインは、シミュレーション開始時にすべての空気を汚染されたものとしてマークすることができるため、それぞれの換気方法によってどの場所がどの程度換気されているかを把握できます。よって、部屋内の咳やくしゃみによる汚染は、発生した場所に関係なく、その影響を考慮することができます。
最初の例では、天井の吹出口 (角型ディフューザなど) を使用してオフィス環境における気流のシミュレーションを行い、2番目の例では、同じオフィス環境で床の吹出口2つ (旋回ディフューザなど) を使用して気流を検証しています。
内側の広がり角が75°、外側の広がり角が85°の一般的な長方形ディフューザを天井に取り付け、この吹出口を介して空気が供給されるオフィス空間のシミュレーションを行いました。ディフューザの流量は32l/s、約18.3℃ (65℉) 設定です。戻り口は部屋の天井の隅にあります。コンピュータのモニターはそれぞれ、25Wの熱をこの空間に放熱しています。
図1. 検証で設置した天井吹出口 (写真右)
図2. 天井吹出口を設置した場合の汚染状況の過渡解析
シミュレーションの結果、オフィス内の汚染物質濃度は、所定の時間内にゆっくりと均一に減少していくことがわかりました。最初の500秒で0.1(kg/kg)に達し、700秒後には0.07(kg/kg)に減少しています。
2番目のシナリオで唯一変更した点は、床に設置した旋回流の吹出口2つ (広がり角15°、スワール角60°) によって新鮮な空気が供給されるようになったことです。各吹出口の流量は16l/s、約18.3℃ (65°F) 設定です。
図3. 検証で設置した床吹出口 (写真右)
図4. 床吹出口を設置した場合の汚染状況の過渡解析
低い位置は汚染濃度がより低く、高い位置は汚染濃度が一部の領域でより高くなっており、部屋全体の状態としては場所によってかなりの差が出ていることに一目でお気付きかと思います。しかし、これこそ置換換気方式の特色です。人間のような発熱体は冷たくきれいな空気を上に引き寄せるため、温かい物の周りに新鮮な空気が届けられます。結果として、旋回流の床吹出口を使用した場合、室内にいる人間の顔周りの汚染物質濃度は、天井吹出口を用いた場合の半分近くになります。
この2つのシミュレーションは、天井吹き出しの混合換気方式よりも、床吹き出しの置換換気方式がきれいな空気を提供できる可能性が高いことを示しています。
オフィス勤務の再開に不安を抱えている方は、数多くいらっしゃいます。私たちはみな、在宅からオフィスへと移行する動きを、可能な限り安全にするための対策を講じたいと考えていることでしょう。そのためには、汚染物質の広がりを考慮しながらオフィス空間を再構築することが重要です。物理現象に基づいたシミュレーションは結果が分かりやすい定量的な方法のため、上述の吹出口のような新しい構成や設備を検証できます。Future Facilitiesでは、シミュレーションの限界と弊社ソフトウェアの可能性を常に検証しています。「このソフトウェアを自社でどう活用できるだろうか?」といったご質問やご相談は、お問い合わせページよりお気軽にご連絡ください。
Product Marketing Manager Danielle Gibson
Research Manager Kourosh Nemati
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